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息子を失った母が、小児病棟で24時間付き添うママに通い続けるお弁当屋さんの1日

ホリ

息子を失った母が続ける、お弁当屋のやさしい挑戦

大阪・吹田で、ひとつのお弁当屋さんが静かに、しかし確かな思いを込めて活動を続けている。
その名は「お家ご飯グリーンの旗」。

朝5時半。まだ街が眠る時間から、1日は始まる。

店に明かりが灯り、スタッフが集まり、手際よく仕込みが進む。
この日の日替わりはとんかつ。下ごしらえから調理まで、すべて手作りだ。

「家庭で毎日は難しいところまで、ちゃんとやりたいんです」

そう話す店主は、レシピ本を何冊も読み込みながら、日々メニューを更新している。
ただ“おいしい”だけではない。「毎日食べられる安心感」を大切にしているのだ。

活動の原点は、病院での孤独な時間

このお弁当屋を始めた理由は、過去の経験にある。

10か月の息子に脳腫瘍が見つかり、長期の入院生活が始まった。
母親として、24時間付き添う日々。

外出はできず、狭い病室での生活。
食事の時間すら忘れるほど、心も体も追い詰められていった。

そんなある日、友人が差し入れてくれた一つのチャーハン。

「おいしかったかどうか、正直覚えてないんです。でも“誰かが自分を気にかけてくれている”って、それが本当に救いでした」

その体験が、今も心に残り続けている。

繰り返す闘病、そして別れ

息子の病気は再発を繰り返した。
入退院を重ねながら、それでも一時は7年間、元気に過ごせた時期もあった。

しかし再び病は襲い、さらに同時期に夫も病気に。
夫はわずか4か月でこの世を去った。

「4か月前まで元気だった人が、いなくなる。
 “やりたいことは今やらないと”って、本気で思いました」

その決意の中で思い出したのが、あのチャーハンだった。

「これなら、自分にもできるかもしれない」

“付き添いママ”に届けたい理由

小児病棟での付き添い生活は、想像以上に過酷だ。

畳一畳ほどのスペースで子どもと24時間過ごし、外出もほとんどできない。
食事は後回し、自分のことは最後。

「削るなら、自分の食事なんです」

わずかな時間で買い物やシャワーを済ませ、慢性的な睡眠不足。
そんな中で、栄養の偏った食事を続ける母親も少なくない。

だからこそ、手作りのお弁当を届けたい。

「コンビニとは違う、“お母さんの味”を届けたくて」

価格も350円〜400円と、できる限り抑えている。
それは、自身が経験した“お金の不安”を知っているからだ。

支えられる側から、支える側へ

この活動は、決して順風満帆ではない。
原価の高騰や体力的な負担に悩むこともあった。

そんなとき、支えになったのは利用者である母親たちだった。

「私たちが支えたい」と声を上げ、チラシや漫画を作ってくれた人もいる。

「自分が助けたいと思って始めたのに、逆に支えられているんです」

そのつながりが、活動を続ける力になっている。

“誰にでも起こりうること”だから

店主は語る。

「特別な人だからできるんじゃない。
 誰でも、その状況になったらやるしかないんです」

だからこそ、この現実を知ってほしい。
そして、少しでも支え合える社会になってほしい。

お弁当は、ただの食事ではない。
そこには、「ひとりじゃない」というメッセージが込められている。

地域からできる、小さな支え

今日もまた、お弁当が病院へと運ばれる。
長い付き添い生活の中で、ほんのひとときの安らぎとなるように。

「頑張っているお母さんたちに、“ちゃんと食べてね”って伝えたいんです」

その想いは、静かに、しかし確実に広がっている。

店舗情報

お家ご飯 grin

  • 内容:手作りのお弁当販売・配達
  • 特徴:小児病棟に付き添う家族へ向けた配食活動も実施
  • 主な活動エリア:吹田市周辺
  • 価格帯:お弁当 約350円〜400円(付き添い家族向け)
  • 関連活動:地域の子ども食堂とも連携し、食支援を展開

※営業日・販売場所・配達の詳細は、SNSや問い合わせにて最新情報をご確認ください。

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