「まだ美味しくなる」毎年レシピを変え続ける大阪・江坂の名店「炭火焼鳥 百星」の一日に密着
吹田の地に根を張る焼き鳥店「百星(ももほし)」。ある一日、店主の百々さんに朝の仕込みから夜の営業まで密着させてもらいました。カウンター越しに見えるのは「ただ焼き鳥を焼いているだけ」——本人はそう笑いますが、その一本の串には、驚くほどの手間と工夫が幾重にも重なっています。
15年の道のりが、地元・吹田にたどり着くまで
焼き鳥ひと筋、およそ15年。始まりは江坂で友人3人と開いたバーでした。うまくいかず、それでも飲食への想いは消えず、大阪・福島で焼き鳥店を営む先輩に声をかけてもらったのがこの世界の入り口。そこから札幌で約10年、西宮では雇われ店長として腕を磨きました。
転機はコロナ禍。仕事が途絶えるなか「どうせなら自分の店を、それも地元で」と一念発起し、ちょうど空いたこの物件で「百星」を開いたそうです。店名は、店主の名「もも(百)」と、愛読する『美味しんぼ』に登場する憧れの店から。名前ひとつにも、料理人としての原点が息づいています。
一杯の“無料スープ”に宿る、継承の心
「百星」を語るうえで欠かせないのが、メニューにさらりと書かれた無料のスープ。仕込みで出た鶏の端材を毎回冷凍し、3時間かけて炊き上げた一杯は、まるで鶏白湯ラーメンのように滋味深く、これが本当に無料でいいのかと驚くほど。
おかわりの回数制限もなく、4〜5杯を楽しむお客さんもいるのだとか。「福島で修業した店がそうしていたので、そこだけは受け継ぎたくて」。このスープはお米を炊く際にも、ズリや椎茸の仕込みにも使われ、店の味の土台を静かに支えています。
部位ごとに変わる、食感への執念
とりわけ心を奪われたのが、部位ごとの下処理の細やかさ。人気ナンバーワンのズリは、銀皮の下まで丁寧に取り除き、出汁に漬け込むことで「舌よりやわらかい」食感を目指します。
ハートは開かず丸のまま串へ——プリッとした歯ざわりを生むための、百々さん流のこだわりです。皮に至っては、旨みの少ないもも皮ではなく首皮をわざわざ別注し、一枚ずつ巻いてジューシーに。さらに冷蔵庫で風にあて、余分な水分を飛ばしてパリッと仕上げる徹底ぶりには、思わず唸ってしまいました。
看板の「百星のつくね」も、もも・皮・骨など数種のミンチに和歌山県産の干し椎茸を合わせ、つなぎを使わずに白ワインで仕立てるため、グルテンフリーの方にも安心の一品です。
炭のすぐそばで焼き上げる、直火の流儀
焼きの技術もまた独特です。多くの店が使う網をあえて外し、炭のすぐ近くで一気に焼き上げるのが百々さんのスタイル。強い火力で短時間に焼くことで、中の水分を逃さず旨みを閉じ込めます。焼き加減を見極めるのは、串を持つ手に伝わる「弾み」。
やわらかな肉が火入れとともに締まり、やがてボールのような弾力になる——その感覚だけで中心温度を読み切るのですから、まさに職人技です。10年継ぎ足したという前店譲りのタレ、ミネラル豊富な上質な塩、素材に応じて使い分ける出汁醤油。味わいの引き出しの多さにも、探究心がにじみます。
幅広い世代に愛される、気取らない一軒
夜はコース+飲み放題が用意され、江坂から仕入れるという日本酒の銘柄もずらり。開業4年目にして、メニューは年に二度ほど姿を変え続けているそうです。「一人でやっていると同じ工程が退屈で」と笑いますが、その飽くなき試行錯誤こそが店の魅力。
ランチにはベビーカーの親子連れから常連の先輩方、若いお客さんまで幅広い世代が訪れ、あっという間に満席となりました。開業当初から支える右腕・そいさんは、百々さんをこう評します——「不器用だけど、人をものすごく大事にする人」。堅苦しさのない温かな空気は、友人との気軽な一杯にも、少しおしゃれな晩ごはんにもぴったりです。
「人のためになる仕事が好き。お客さんもスタッフも、みんなが幸せな時間を過ごせる、その手助けができれば」。そう語る百々さんの言葉に、この店の居心地の良さの理由がすべて詰まっている気がしました。吹田で本物の焼き鳥に出会いたくなったら、ぜひ「百星」の暖簾をくぐってみてください。






